(長編)廃屋の残響

廃屋の残響(11)

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一歩を踏み出した先は斜面になっていたため、想定した場所に地面がなく、盛大に重心を崩してまた転んでしまった。

倒れた姿勢のまま滑り落ち、木の葉や枝がガサガサ騒いだ。
その音のおかげで私の場所が伝わったらしい。光がこちらに向いて近づいてきた。


「お客さん!」


ライトが私を捉えた。


お客さん? 


光が眩しくて相手の姿が把握できない。

目をしかめていると、相手はあっと小さく言って光を自分に向けた。

「先ほど乗られたタクシーの運転手です。……大丈夫ですか」

赤ら顔に後退した髪の毛。
確かにあの運転手だった。


どうしてここに?


言われるままに照らしだされた自分の体に視線を移すと、衣服は所々破れ、木の葉や土が絡みついている皮膚からは、汚れなのか血なのか分からない黒いものがべっとり出ている。


「大丈夫なわけないじゃない!」


思わず大きな声で叫んでしまった。


「さっき腕を引っ掛けて、血が出て、転んで足擦りむいて、裸足で歩いて、足の裏だって、痛いわ。周りも暗くて、帰り道も分からなくて。……怖かったの!」


靴を捨てた足は、爪の間に土や小さい石が入り込み、小指の爪は剥がれてしまっている。


足をさすりっているとボロボロと涙が出てきた。

「もう本当いや!」


しゃくりあげて、息を吸うのもしんどいくらい泣き喚いた。


「お客さん……」


運転手が何か言っていたが、自分の泣き声しか聞こえなかった。


私の声が山中に響き渡って、全てが私の存在に耳を澄ましていた。


私はここにいる
存在を認めて。


目の前に立ち尽くしている男は、私のことを頭がおかしいと思っているのだろうか。
いい大人がこんな大声あげて泣くなんて。

でも、もうそんなことどうだっていい。
私だって自己主張していいじゃない。

今までずっと我慢してきたんだから!



ひと通り泣き叫び、疲れてしゃくり声しか出なくなった私に運転手は静かに言った。

「痛かったでしょう。怖かったでしょう。心配になって見に来て良かった」


思わぬ優しい言葉だった。
この人は本の数時間一緒にいただけの客のために、心配して山の中まで探しに来てくれたのいうのか。


「さぁ戻りましょう。もうこんなことしちゃいけない。生きていれば楽しいことは必ずあります」


諭すようなその口調……。


あれ…もしかして自殺しようとしてたと思われてる?


思い返してみると、こんな夜に山の中に一人で入って、傷だらけで取り乱している行動は、確かにそう思われてもおかしくない気がする。
なんだか滑稽で笑いがこみ上げてきた。


「違います。自殺しにきたんじゃないんです」

「え じゃあなんでまたこんな所に?」

くすくすと笑いながら事情を説明した。

「子どもの頃、お屋敷がこの辺に建っていたんです。そのお屋敷がまだあるのかどうか、どうしても気になって……」


立ち上がって服についた汚れを払った。


「なんだか毎日に疲れて、自暴自棄になってました。夜中にこんなとこに来るなんて。私、大分頭おかしくなってましたね」


自嘲する私から視線を外し、おじさんは辺を照らした。


「こんな山の中にお屋敷があったんですか」


「ええ……当時から住人はいなくて廃墟になっていました。大人たちは知らないようでした。

不思議なもので子どもってそういうものを見つけるのが上手いんですよね。行く道に印もつけてたはずなんですけど……暗くて見えなくて」

周囲は同じような木がただ黙って上に向かって伸びていた。

「私が大人になったから見つけられないのかしら」

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~ Comment ~

NoTitle

こんばんは!
廃屋の残響11読ませていただきました♪
私の声が山中に響き渡って、全てが私の存在に耳を澄ましていた――の下りがとっても素敵ですねヽ(★゚ω゚)ノ
景色や音が主人公の気持ちとリンクしてくる感じが好きです!

そして運転手、めちゃイイ人ですねw
どうやら「無い」ことをにおわせるキャラクターのようですが━━━(*′艸`*)━━━続き、楽しみにしてます♪
続き、楽しみにしてます

NoTitle

……すいません、若干文章ミスっちゃいまして…
わざと二回言ったわけではありませんので(笑)

夢月亭清修様

こんばんは!
さっそくコメントありがとうございますm(__)m

素敵って言ってもらえて嬉しいです(≧▽≦)
運転手さんいい人ですよねー。大抵の人はそこまでしない気がしますが……。
いい運転手さんのタクシーに乗った主人公はラッキーでした(笑)

続き頑張ってUPしますね♪コメントありがとうございます(^_^)

二度発言了解です(笑)
私もよく誤爆するので(笑)仲間ですね(*´ェ`*)(おい

もしかして……

ずいぶん親切な運転手さんだな。
自殺しようとしてると思われたのなら、こういう行動もするのかな。

いや、このおじさん、実は主人公に変な気持ちを抱いてるんじゃないの? 弱みに付け込んでなにかしようとしていない?

あ、それともそれとも、この過去のなにかと関わりがあるとか?

などなど、運転手さんについての妄想全開になってしまうのですが、このおじさんは普通の善人なのでしょうか?
それとも……。

善人だとしたら、運転手さんごめんなさい。
私は正確が歪んでいますから。
そうじゃなかったとしたら……うわうわ、ますますこわっ。
ですね。

あかね様

コメントありがとうございます!

運転手さんはどうなんでしょう……。
たぶん大抵のタクシーの運転手さんはここまでしないかもしれない……。

いい人なのかそれとも…続きをお楽しみにです!( ´∀`)bグッ!

10話で終わると言っておいて終わりそうにないです(^_^;)
後もう一山あります(^_^;)
これは短編ではないですね…後で直しておかないと。

NoTitle

あの運転手さんが、こんな形で物語に入り込んで来るとは、驚きでした。
確かに、親切すぎる気もするけど、なにか裏があるのかな・・・?
なんて。
妙に勘ぐってしまうのが悪い癖。
この後の展開も、楽しみです^^

lime様

コメントありがとうございます!

運転手さんまさかの再登場です(笑)
運転手さんはどうなんでしょうね…何を考えているのか。

10話で終わる予定がまだ続きます(^_^;)
もう少しお付き合いくださいませm(__)m
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