(長編)廃屋の残響

廃屋の残響(8)

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行かないと
やっぱりあのお屋敷に行かないと!


話途中だったスマホを投げ出し、財布だけを持って家を飛び出した。

大通りまで行き、行き交う車の中に半ば飛び込むような格好で手を大きく振って一台のタクシーを止めた。

それは個人タクシーだった。


「どちらまで?」


乗り込むと運転手がルームミラー越しに顔を見ながら声をかけてきた。

50歳くらいだろうか。

大きな赤ら顔に後退した前頭部。

ほとんどない首を締め付けるようにカッターシャツのボタンを丁寧に一番上まで止めていて、顎の肉が襟にかぶさっていた。

目蓋にも重たい脂肪が貼り付いて目が開いているのか閉まっているのか分からない。


野太い声の相手に実家の住所を伝えながら車内のデジタル時計に視線を移すと、時間は7時を少し回ったところだった。

高速道路を飛ばしてもらえば2時間ほどでつくはずだ。


実家から山の手に回ってもらえばあのお屋敷がある……。


車内はカチカチカチとランプの点滅する音と一緒に陽気なDJの声が流れている。

必要以上の音は聞きたくない。

ラジオを消してくれるよう頼むと、会話を拒むように窓の外に視線を移した。

夜は更けようとしている。

繁華街は行き交う人の種類を変えようとしていた。





高速を下りると、さすが田舎だ。明かりもないただ道が一本伸びているだけの景色に変わっていた。

裏山の山道へ行き先を指定していると、運転手のおじさんが急にオドオドし始めた。


「ほ、本当にこっちですか?」


何度もルームミラーからこちらを確認している。

こんな時間に女一人で誰もいない山道に入っていくなど、気味が悪いのだろう。


「大丈夫です。ここで下ろしてください」


舗装されていない細い一本道の中腹で私はお金を払った。


「お客さん、本当にここでいいんですか?」


最後の念押しとばかり運転手は太い上半身を捻って振り返り、こちらの顔を正面から見据えた。

いいって言ってるでしょう。
しつこい人ね。



ドアが開くと、都会とは違う空気が流れこんできた。

これは木の皮の香りだ。

それと都会では絶対聞けない鼓膜を震わす虫の音の強さ。


こういう自然が自分が実家に帰って来たことを再確認させてくれる。



道に降り立つと、自分がヒールで来ていたことに気がついた。

急いでいたとはいえ、よりにもよってヒールを選んでいたとは、本当運が悪いわ。


体重をかけると薄い靴底に石が刺さって足裏まで突き上げる。


これで今から山道を進むの?


辺りは真っ暗で車のルームランプがなければ足元も見えない。

もちろん街灯なんてない。

でも、ここまで来たんだから!


私の記憶が正しければ、今立っている道をまっすぐ進んでいくと蛙の形をした大きな岩がある。

そこから山の中に入れば、お屋敷への近道になっているはずだった。

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~ Comment ~

駄目~

夜中にひとりでそんなところに行くなんて、戻っておいでって、彼女の腕を引っ張って引き戻したい気分です。

彼女、完全におかしくなってますもんね。
そして乗ったタクシーの運転手がまた……この不気味なおじさんを主題にして、タクシーホラーが書けそうじゃありません?

そしてそして、足元はヒール。
悪条件がそろってますねぇ。わーわーきゃーー、戻っておいで。

でも、もう戻れない。
彼女を待っているものは……こわっ。
その怖さ、どう展開するのか、次回に期待しています。

NoTitle

ますますホラー感が増してきました。
この先に、彼女の過去の何某との遭遇があるのか・・・。
ホラーが全くダメな私にも読めるのでしょうか。
うう・・・・。

あかね様

コメ返遅くなってすいません(>_<)

本当この主人公どうなっちゃうんでしょう(-_-;)
もう冷静な判断能力なくなってますね……。
ヒールで山道は大変です!
一度ヒールで鍾乳洞行ったことあるんですが、もうリアルインディージョーンズみたいな感じで大変でした(^_^;)
ちゃんと運動靴で行くべきです!

タクシーホラー(笑)
タクシーって幽霊話しとか色々ありますもんね。是非あかねさんこのおじさんでホラーを一作!(おい

次回楽しみにしてくださってありがとうございます!
がんばってUPします(^_^)

lime様

どんどん泥沼にはまっていく主人公です……。
わ、わたし的には今後もあんまり怖くないつもりで……す…?(おい

駄目だったらこうなんか癒やしの子犬なり子猫の画像でモザイクがかかる仕組みに!(そんな技術ない)
もうちょっとです!もうちょっとで終わるので!
駄目だったら☓ボタン押して消しちゃってください(^_^;)

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