(長編)廃屋の残響

廃屋の残響(5)

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それからというもの、私の生活は耳鳴りと頭痛に支配されていった。

平気な時がないわけではない。
しかし、そんな時でもいつまた始まるかと思うと気が休まらなかった。


ハルナからの電話にも応答しなくなっていた。

だって言葉もろくに拾えないんだもの。
愚痴を聞いてほしいだけなら他の人に話せばいいじゃない。

それなのに、出ない電話の着信回数は日に日に増えていく。



ゆっくり寝れば治る。

工事が終われば、隣がいなくなれば。

そうすればきっと全ては上手くいく。


その思いを呪文のように繰り返し、耐え忍ぶ日々。



そんな中、耳鳴りの合間に報道の声を見つけた。

例の事情聴取を受けていた男が自供したという。

被害者の女性が帰宅したのを隣の部屋で待ち構えていて、女性宅の玄関で殴打。

気を失った被害者を暴行目的で自分の部屋に引きづりこんだらしい。

はじめは殺すつもりはなかったらしい。

しかし、女性が行方不明になったということが思いの外早くに騒ぎになり、焦って殺してしまったのだという。


肝心の遺体は浴槽で切り刻み、排水口用洗剤で溶かして流したと伝えていた。

この洗剤って、近所のドラッグストアに売ってあるやつじゃない。

画面に映ったその洗剤は、商品名のロゴにモザイクこそかかっていたものの一目見ればすぐに分かった。

小さめのポリタンクのような容器に目立つ黄色いカラー。

CMでも見たことがある。

排水口に詰まった髪の毛を溶かして綺麗に流すというのが売りの商品だ。

前から気にはなってはいたが、こういう商品は似たり寄ったりで宣伝ほど劇的なものではないと思っていた。

……本当に溶けるんだ。

画面が切り替わり、洗剤の残像を残したままインタビューを受けていた犯人の顔が何度もリピートされた。






その日は朝からよく晴れていた。

本来ならこんな日は前向きな気分で出勤出来るのだが、光が刺激となって目に入り頭痛と耳鳴りを誘発しはじめる。


もう、仕事のミスも先輩からの叱責もどうでもよくなっていた。

周りの雑音の方がずっと神経に触る。


電話の呼びベル。

PCのキーボードを叩く指。

回る換気扇。

ああ……くらくらする。

世界がグニャグニャに溶け合い出し、平衡感覚までも侵されていく。

波打つ床に垂直に立った上司がこっちに向かって歩いている。

革靴が床を叩く、服が擦れ、吐いては吸われる空気。

響く。響く。

耳の奥に。


「おい」

顔の歪んだ上司から間延びした音が発せられた。


「顔色が悪いぞ。最近ミスも続いているようじゃないか。……有給、残ってるから取ったらどうだ」



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~ Comment ~

NoTitle

きゃーーー。
排水溝の髪の毛溶かす奴、うちにもある。
本当にあれで溶かせてしまったら、新たな完全犯罪の成立ですよね。
これは・・・新たなミステリー。
たおるさん、目の付け所がすごいです。
そしてやっぱり、……ホラーです!!
もう怖い展開しか想像でき無いw

lime様

おお、例の洗剤limeさん家にもありますか!
私も一度買ったのですが、このお話で書いてるほどの威力はありませんでした(^_^;)

同じ洗剤か分からないのですが、こういう洗剤を使った事件は実際にあって、それを参考にさせてもらいました。

一応全部書き上げているんですが、UPする前に読み返してみて、あ、ホラーだわってなりました(^_^;)
どんどん堕ちていく主人公……近くにこんな人いてもちょっと私は助けてあげられそうにないです(爆)

暑いですし!(あ、台風でここ数日は涼しかったですが。limeさんのとこは台風大丈夫でしたか?)このお話で少しはゾゾッと涼しくなってもらえたら嬉しいです( ´∀`)bグッ!

わ~

更新されるたびに怖くなっていっているのは気のせいじゃありませんよね? 現実にありそうで、なさそうで、そのギリギリの部分が怖いのですけれど、まさにこれはそこに迫って行っていますよね。
わ~、この主人公、本当は……ってことはないですよね。こわいこわい。もう、主人公の自身が怖いです。
目隠しして指の隙間から読ませていただくことにします(怖いから……)。
でも、この展開の鮮やかさ、たおるさんの世界だなぁって思いました。すごい心理的に追い込むのが上手い! 
続きも楽しみにしております!!

大海彩洋様

こちらも読んでくださったんですね!
ありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ

う、うん…怖くなっていってますね(^_^;)
ホラーのつもりで書いてたわけじゃないんですが、読み返すとホラーになってました(-_-;)

そ、そんなwww
指の隙間から読まないでwww堂々と目を見開いて読んで下さいwww

大丈夫です! そんな怖くないですよ! ほら! ちょっと…主人公がなんか…アレなだけで……(
決してこの主人公が大海さんの隣に住んでたりなんか……(やめろ

わっわっ展開が鮮やかになてましたか?嬉しいです(*ノェノ)キャー
またゾクっとしにきてください(^_^)

ますます高まるサスペンス

刃物の続きですが。

芝刈り用の鎌みたいののCMあるでしょ?
きゅうりや野菜をあの羽ですぱっと切って、切れ味抜群!! とかやってるの。

仕事で使う裁断機とか。
玉ねぎスライサーとか。
包丁やナイフよりもそういうのが怖いんです。
いろいろと想像すると、足の指がぞわぞわっのもぞもぞっ。

私は甘すぎるものを食べたときにも、足の指がもぞもぞぞわぞわします。
変な想像も足の指に直結するのですね。
まんじゅうこわい……

あ、すみません、よけいなことばっかり書いて。

小説のほうは、この不快感といいますか、主人公の感じているいやーな気分が伝わってきて、いっそう「こわそう、こわこわ」というこちらの気分もかきたてられます。

このあたりでは焦らされていますが、このあとどうなるんだろ。
わくわく、こわこわ。

あかね様

ありますあります!
CMでは陽気に言ってますが怖いですよね…。

換気扇とかも怖いです…。
以前換気扇で指切断してしまった人がいて、もうその話し聞いただけで手に力が入らなくなってしまいました(-_-;)
あと、靴のミュールが流行ってるときに、ミュール履いてエスカレーター乗っていて足の小指挟まって切ったニュースが流れてもううわー!ってなりました(-_-;)

全然関係ないですが電車の改札口とかも、バタンってしまるんじゃないかって怖いんですよ…あかねさんは大丈夫ですか?

まんじゅうこわいですかwwwww
なんだっけ。ヤマダのオロチかなんかにそんなお話がwwww
お中元でおまんじゅうの詰め合わせ送らないとwww

甘いものは小さいときめっちゃ甘いあんみつ食べたことがトラウマになってて……そのとき入ってた器が白に淡いピンクと紫、黄色の模様が入っていたんですが、大人になった今でもその色合いを見ると吐き気がしますorz
あと、エクレア食べたら時々高熱でます。関係あるのかないのか分からないですが(^_^;)

どんどんこんな話ししてください!面白いですwww


小説の方はもうちょっと怖いのが続きますー。
もう6話なんであと半分で終わるはず! もうちょっとお付き合いくださいませm(__)m

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